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市場原理と医療制度


 日本の医療制度改革の議論の中では、2つの勢力が力をもち、1つは規制改革・民間開放推進会議であり、医療をビジネスチャンスの創出として、市場原理の導入、株式会社による病院経営、混合診療の解禁などが主張されています。
 他の1つは財務省、財界で医療費抑制が最優先であると主張するグループであります。

 医療を市場原理に任せている国の典型をアメリカに見ることができます。アメリカにおいては、民間の保険会社による医療保険が主流で、市場原理から落ちこぼれた人々のためには、高齢者のための「メディケア」、低所得者のための「メディケイド」という公的医療保険の救済制度があり、国家予算の16%という巨額の税金が投入されています。それでも4,000万人以上の無保険者が存在しているのが実状であります。アメリカ国民1人当たりの年間医療費支出は5,000ドルを超え、そのうち2,306ドルを税金が占めており、日本人1人当たりの医療費総額よりも高く、アメリカが使っている税金だけで日本の医療費はおつりがくるということになります。結局日本が極端に医療費を切り詰め、アメリカは贅沢に使ってはいるが、医療を市場原理に委ねており、社会全体の効率が非常に悪くなっていることがわかります。
 
 市場原理による医療の問題点は、主に4つ考えられます。
 第一に、社会的弱者が切り捨てられ、無保険者が増加し続けます。
 第二に、負担の逆進性で社会的弱者、病人ほど負担が重くのしかかることになります。大口顧客である民間保険加入者には、病院が医療費をディスカウントし、無保険者には高額を請求している事実があります。
 第三に、「バンパイア効果」といって、非営利病院が営利病院の経営に模倣をしないと生き残れないことであり、良心的医療機関の存在が難しいということであります。
 第四に、市場原理を導入しても、医療費が下がる保証がないことであり、アメリカでは薬剤価格が高く、世界一高価な薬を患者は買わされているのが現状であります。
 
 混合診療解禁がもたらす問題点は、
 第一に、お金のあるなしで、医療に対するアクセスが差別されることであり、現在、日本ではどこでも、誰でも好きな医療機関にかかれるフリーアクセスでありますが、混合診療が全面解禁になるとこのような制度は崩壊してしまいます。
 第二には、えせ医療が横行する恐れがあり、未承認の怪しげな薬による治療がまかり通ることが心配されます。
 第三には、医療保険本体が悪用されかねないことです。例えば、美容整形が目的なのに、別の保険病名で入院させ保険診療本体のお金を無駄遣いされかねないことであります。結果として、保険医療が空洞化し、保険医療と自由診療の二本立て制度が実現すれば、承認を得るために、高いコストをかけ臨床試験を行う製薬会社が存在しえなくなり保険診療は時代遅れといわれかねないのです。混合診療を全面解禁する過ちは決して犯してはならないのです。
 
 医療というものは、国民の生命を守るものであり、基本的人権にかかわるものであります。医療に市場原理を持ち込みビジネスチャンスを窺うことは、人の肉体を切り売りするベニスの商人(シェークスピア)となんらかわることがないのであります。

 OECDには加盟国が30ヶ国あり、医療費のGDP比は平均8%日本はその平均値より低いです。先進7カ国に限れば平均9%で日本は最下位であります。もし日本が引き続き医療費抑制政策を続けるならば、どのような事態が起きてくるのでしょうか?その典型をイギリスにみることができます。イギリスの医療は、現地のジャーナリストが「イギリスの医療は今や第三世界並だ。」というほど荒廃しました。

 1979年サッチャー主相が政権につきスーパーマーケットの全国チェーングリフィス会長に市場原理を導入すれば、医療費を増やさずに競争原理により医療の質が上がると主張し株式会社参入など市場原理を導入したが、結果は惨めなものでした。第一に“waitinglist”とよばれる待機患者問題で、200を超える病院の救命救急センターを受診した約3,900人の入院待機時間の平均は3時間半を超えていました。

 また冬になるとwinter crisisといって、インフルエンザ等の流行によりベッド不足になり看護師がその前に退職する事態が起こっています。一方、一般医療受診者の半数は、原則予約制で2日以上待たないと診てもらえない、専門医療では10万人の入院待機者リストを削減しても尚、100.7万人の待機者が残っています。その背景には深刻な人手不足があります。毎年海外から看護師で5,000人から1万人受け入れ7割がフィリピン人だといわれています。

 「国民負担率」国民所得に対し年金保険料などの保障負担、所得税、消費税などの合計がどの程度?(財政赤字は含まない)
 
「潜在的国民負担率」=(税金+社会保障費+財政赤字)/国民所得 
 2003年日本は47.1%、ヨーロッパ50%以上、スウェーデン76.5%。経済財政諮問会議は50%以下とするといいます。実際には国民所得を増大させるか分子を抑制することです。分子は政府の歳出全体と同じである為、分子が大きければbig governmentであります。

 ある公共サービスを受けるのに1万円の税負担がかかるとします。その代わり自己負担は全くかからない国。他方税は8000円だが自己負担4000円かかる国。
 前者がヨーロッパ型、後者が日本であります。税金が高いから負担が大きいわけではありません。自己負担分が分子に含まれていないから潜在的国民負担率が低いのは当然であります。他の財政で生じた赤字を社会保障費の削減で誤魔化す為の巧妙なレトリックであります。

 2002年、在日アメリカ商工会議所(ACCJ)は「医療法人経営への株式会社参入」の要望書を公表し医療法7条の改正を求め、経済財政諮問会議、規制改革、民間推進会議この流れに乗った主張を展開している株式会社参入はもう一つの「混合診療の解禁」とセットになっています。公的保険給付を削減したい政府、財務省と、100兆円マーケットといわれる医療市場を狙う財界の利害。思惑が一致しているということであります。

 オリックスなどは「医療コングロマリット」を狙って投資している組織であります。これには最低、ファイナンス、保険、医療周辺サービス、病院経営会社の4つの機能が必要です。病院経営への株式会社参入が実現すればグループ全体での医療事業をめぐる資本の輪が完成するのであります。オリックスの経営者である宮内氏は規制改革、民間開放推進会議の議長を務めています。これは「利害の抵触」です。「利害の抵触」とは、ある役職につく人間がその権限を利用して、個人的利益を得ることであります。これがモラルハザードでなくてなんでしょうか。ACCJの後押しを受け、医療に市場原理を持ち込むことを画策する勢力こそ日本の医療にとって、国民にとってPublic Enemy NO.1なのです。


愛 知 県 医 師 会 理 事

牧   靖 典



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